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民法改正(債権法改正)― 取消し

法律行為を取消した場合

 

【ポイント】

未成年者がした契約など、制限行為能力者が行った契約や、詐欺など意思表示に瑕疵がある契約は取り消すことができます。そして、法律行為が取り消されると、初めから無効であると規定されています。

 

改正前の民法では、取消された場合の原状回復の範囲について、未成年者等の制限行為能力者の場合、現存利益(現在残っている利益)で返還の義務を負うとのみ規定されていました。しかし、未成年者等制限行為能力者でない場合については、法律上の原因なく、他人の財産または労務によって利益を受けたとして不当利得のルール(利益の存する限度、または受けた利益に利息を付けて返還させる)に従って処理されていました。

 

しかし、無効な行為や取り消された行為に基づき債務が履行された場合に、当事者がどのような義務を負うのかについての特別な規定が設けられていなかったため、判例や学説においても確たる解決が確立されていませんでした。また、不当利得のルールをそのまま当てはめるとすると、当事者双方の善意・悪意と目的物の費消の有無との関係において不公平なケースが生じていました。

 

そこで、新しい民法では、不当利得の特則として第121条の2を設けました。

新しい民法は、①現状回復を原則とし、②(1)有償で相手方が善意の場合は全部の返還(2)有償で相手方が悪意の場合は全部の返還(3)無償で相手方が善意の場合は現存利益内の返還(4)無償で相手方が悪意の場合は全部の返還③意思無能力者は現存利益内の返還とするということが明確に定められました。

 

なお、利息については、無効取消しの原因は様々であるため、依然解釈によります。

 

また、新しい民法124条1項では、取り消すことができる行為の追認(それを認めて有効とすること)をするには、取り消しの原因となっている状況が解消されているだけでなく、取り消しができることを知った後でなければその効力が生じないとされます。例えば、未成年者が親権者の同意を得ずにパソコンを購入した場合でも、後に成人となった時には、自分が購入契約を取り消すことができることを知った時から追認することが可能となるわけです。さらに民法124条2項では、前記の例外として制限行為能力者の行為に関し、取り消しの原因となっていた状況が消滅していなくても、追認できる場合をまとめました。

 1.法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認するとき

 2.制限行為能力者(成年被後見人を除く)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認するとき

 

【参考法令】

2020年4月1日施行

第121条 (取消しの効果)

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

 

第121条の2(原状回復の義務)

1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。

2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

3 第1項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

 

第124条(追認の要件)

1 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。

2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。

一  法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。

二  制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

 

【参考】

第703条(不当利得の返還義務)

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

 

第704条(悪意の受益者の返還義務等)

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。