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民法改正(債権法改正)― 代理

代理人に問題があった場合

 

【ポイント】

(代理行為の瑕疵)

これまで、たとえば代理人が相手方に対する(能動的)意思表示に詐欺などの問題がある場合や、相手方が代理人に対して行った(受動的)意思表示に、たとえば心裡留保があるなどの問題があった場合にも、現行民法101条の規律に含まれるのかという疑義や批判がありました。そこで新しい民法では101条の規律を明確化し、代理人が相手方に対して行った意思表示について、意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫に基づく場合など、ある事情を知っていたのか否か、過失なく知らなかったのか否か等の主観的要件は、代理人を基準にして判断し、取り消せるかどうか決することとしました。

 

(代理人の行為能力)

これまでも制限行為能力者(成年被後見人等)が代理人としてなした行為は制限行為能力を理由として取り消すことはできませんでした。しかし、制限行為能力者の増加、老老介護の超高齢化社会において、本人保護の観点から、制限行為能力者が法定代理人となっている場合において、本人も制限行為能力者である場合については、取消権を認めるようになりました。

 

(代理権の濫用)

代理人が代理人自身や第三者の利益を図る目的で代理行為を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができた場合には、その効果は、無権代理行為とみなすこととし、本人には法律効果は帰属せず、代理人は無権代理人として履行または損害賠償などの責任を負うことが原則とされます。

 

【参考法令等】

2020年4月1日施行

民法第101条(代理行為の瑕疵)

1 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

 

民法第102条(代理人の行為能力)

制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

 

民法第13条第1項に掲げる行為(被保佐人がその保佐人の同意を得なければならない行為)に次の行為を加えるものとする。

民法第13条第1項に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること。

 

民法第120条第1項

行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

 

民法第107条(代理権の濫用) 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

 

民法第112条(代理権消滅後の表見代理等)

1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。