相続財産の全部または一部を処分した場合、相続を単純承認したものとみなされて、相続放棄はできなくなります。ただし、経済的重要性を欠く程度の形見分けや、社会的に見て相応した範囲での葬儀費用の支払いなどは、通常の財産処分にあたらないと解されています。
また、相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときは単純承認したものとみなされます。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでありません。(民法912条3号)
民法921条3号は、相続人の背信的行為への民事的制裁と解されており、「隠匿は」相続財産の所在を不明にし、「私に消費」とは、ほしいままにこれを処分し価値を失わせることをいいます。従って財産の保管その他の正当な事情に基づく消費であれば、背信的な行為にあたらないことになります。(谷口知平/久貴忠彦編「新版注釈民法27」489頁有斐閣)
いずれも、実質的、経済的重要性の有無が判断のポイントとなります。
参考 相続における承認・放棄の実務 新日本法規
谷口知平/久貴忠彦編「新版注釈民法27」489頁有斐閣