■相続放棄をしたら遺産はどうなるか?
放棄した相続人は、その相続については、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
同順位の一人が相続放棄すれば、他の同順位の相続人の相続分が増え、同順位の者がいなければ、次順位の相続人が相続人となります。
配偶者や第2、第3順位の相続人もすべて相続放棄した場合は相続人不存在となります。
■相続放棄後の相続人の不存在
すべての相続人が相続放棄をすると、相続資格のある相続人がいない状態となり、相続財産を誰が管理し引き継ぐのかが問題となります。
そもそも、相続人は、相続放棄をするまでの熟慮期間中も、自己の固有の財産におけると同一の注意をもって、相続財産を管理する必要があります。これは財産の帰属が確定するまでの不安定な状態から問題が生じないよう相続人に課せられた義務です。
そして同様に、相続放棄後も管理を引き継ぐべき者が管理を開始するまで、自己の固有の財産におけると同一の注意をもって、相続財産を管理する必要があります。これは、相続放棄によって生じる管理の空白期間に、相続債権者その他の利害関係人の利益を害することのないよう課せられた義務です。
よって、他に共同相続人がいる場合は、その者が管理を開始してはじめて、相続放棄した相続人の管理義務が消滅します。すべての相続人が相続放棄した場合には、民法951条により、相続人があることが明らかでないときに該当し、同952条により相続財産管理人を選任し、管理を引き継ぐこととなります。
同条の要件は①相続開始後、②相続財産が存在し、③相続人のあることが明らかでない場合に、④利害関係人または検察官の申立てに基づいて、⑤必要性がある場合は、家庭裁判所によって、相続財産管理人が選任されます。
なお、申立人となりうる利害関係人には、相続放棄した相続人も含まれます。
相続財産管理人関係事件における手続きの流れ
手続きは資産超過型(被相続人のプラスの財産がマイナスの財産より多いケース)のスキームと、債務超過型(被相続人のマイナスの財産がプラスの財産より多いケース)のスキームがあります。
実務では債務超過型の事件が比較的多いように感じます。もし弁済後も積極財産が残る場合は、資産超過型となり、引き継ぎのための手続きと相続人捜索のため長期間の公告等を必要とします。おおまかな流れは次のとおりです。
①家庭裁判所に対する相続財産管理人選任の申立て
②相続財産管理人を選任した旨の官報公告
③相続債権者及び受遺者に対する請求申出の官報公告
※債権者等への清算が必要であれば、相続財産を換価し弁済しあるいは配当する。債務超過型であれば、ここで管理は終了する。
資産超過型となりますとさらに以下の手続きが必要となります。
④相続人の捜索の官報公告(6ケ月以上の期間を要する)
⑤特別縁故者に対する財産分与の申立て
※上記④の期間の経過により相続人の不存在が確定すると、特別縁故者に対する財産分与の申立て、すなわち相続人ではないけれども特別の関係にある者→例えば、「被相続人と生計を同じくしていたもの」「療養看護に努めたもの」等の申立てがある場合、相当であるかにつき財産管理人の意見を家庭裁判所に申述する。
⑥分与の審判もしくは申立却下の審判
⑦特別縁故者に対する分与財産の引渡し
⑧残余財産の国庫への引継
⑨管理事務終了
相続財産管理制度については、こちらのコラムも、ご覧ください。→ マイベストコラム【相続人不存在】
参考:新日本法規 相続における承認・放棄の実務